2014年1月 最も美しい隣人という賞を
受賞した徐 文建(シュー ウェン ジエン)
「隣人とは ある意味 家族ではないでしょうか?彼女は若き日の私に対し家族のように接してくれました。今も私の心の中で生きています」
●最も美しい隣人
1979年、中国 四川省の農村地帯
農業の傍ら、養豚を営む家の一人息子として生まれた15歳のシュー
真面目で優秀な青年だったが、経済的な理由から学業を断念
中学を中退し、家の手伝いをしていた
「ごめんください!残飯ありますか?」
シューの家はあまりに貧しく家畜のエサすら買うお金すらなかった
そのため彼が毎日村を歩き回って家々に頭を下げ、残飯を集めていた
一生 残飯集めをするしかないのか…シューは思い悩んでいた
そんなある日のこと、ふとシューが立ち止ったのは、
ワンタン麺が美味しい一軒の食堂の前
彼にとっては年に一度食べられるかどうかのご馳走だった
一度でいいからワンタン麺をお腹いっぱい食べてみたい
お金を持っていないシューは、通りかかるたびに匂いを嗅ぐだけ
立ち去ろうとすると…王 子玉(ワン・ツーイー)に声をかけられた
「さぁワンタン麺を食べましょう。食べたかったんでしょ?」
「いやでも…お金が無いんです」「いいから いいから」
彼女に促されるまま、シューは店の席に
村で夫と息子の3人で暮らしている女性
「実は何度もあなたのことを見てたのよ。大変ねぇ」
残飯集めをしているシューを前から見ていたという
シューは、なぜ残飯集めをしているか?事情を話した
「さぁ食べて」「いただきます」
シューは無我夢中でワンタン麺をすすった
「気を付けて帰るのよ」「ありがとうございます」
この恩は一生忘れない…
それから数日後…リヤカーを引くワンさんを見かけた
その後を追いかけていくと辿り着いたのは、みすぼらしい家
中には病床に伏せるご主人らしい人も
「あら…どうしたの?こんなところで」
シューは言葉を失った
ワンタン麺をご馳走してくれたワンさんも貧しい生活を送っていたのだ
彼女の仕事は荷物運び、1日の稼ぎは2~4円程度
それはワンタン麺 一杯分の値段と同じくらいの額
「どうして僕にワンタン麺をご馳走してくれたんですか?」
「私も色んな人に助けてもらったのよ」
ワンさんの息子は生まれつき盲目で、周りの人が助けてくれた
「困っている時はお互い様。家族も他人も関係ないのよ」
僕も全ての人を家族のように思える人間になりたい、とシューは思った
その後、シューは手に職を付けるため大工修業を始めた
そして月日は流れ、シューは同じ村の女性と結婚
一人前の大工にはなったものの生活に余裕はなかった
すでに父は他界していたが、家には高齢の母が…
そして息子は食べ盛りの15歳
そんなある日のこと、ワンさんが車と接触、病院に運ばれた
その話を聞いたシューは急いで病院に向かった
幸い、ワンさんの意識はしっかりしていたが、
車に轢かれ足を骨折、全治3か月の重傷を負っていた
「私も注意が足りなかったし、誰も誰も悪くないんだよ」
どこまでも優しいワンさん
後日、再びシューが見舞いに行くと、ワンさんはいなかった
ワンさんの夫は19年前に他界、
実は事故に遭った年に最愛の息子も他界
ワンさんはシューに心配をかけまいと息子の死を隠し、
気丈に振る舞っていた
天涯孤独の身となった上、事故で歩けなくなったワンさんは、
数日前に施設に送られた
それは公営の為に入居にほとんどお金がかからない老人ホーム
シューは敬老院を訪ねた
「よくここが分かったね。嬉しいよ あなたが面会に来てくれて」
「実は 今日は面会に来たんじゃないんです」
シューはおんぶしてワンさんを連れ出した
「お昼ご飯まだですよね?一緒に食べましょう」
「ここは?」「僕の家です」「ご飯を…あなたの家で?」
「そうです。ウチで一緒に食べましょう」
「重かったでしょう?帰りは私一人で帰るから」
「その心配はしなくて大丈夫ですよ。これから一緒に暮らしましょう」
23年前、一杯のワンタン麺と共に希望をくれたワンさんへの恩返し、
それは彼女を家族として迎えいれる事だった。しかし…
「せっかくだけど遠慮するわ。あなたの家族に迷惑はかけられないモノ」
「困っている時は家族も他人も関係ない、そう教えてくれたのはワンさんじゃないですか」
「大丈夫 私は敬老院で十分よ」
その時、妻と息子がワンタン麺をテーブルに運んできた
「一緒にワンタン麺を食べましょう」「ありがとう」
こうして運命の出会いから23年、ワンさんはシューさん一家と暮らし始めた
彼女の唯一の財産は、拾った竹の棒だけ
シューは、ただ恩返しをしたかった
そんなシューの行いは、最も美しい隣人として多くの人から称えられた
シューさんと暮らし始めて11年、2014年1月6日、
ワンさんは安らかに息を引き取った
「あなたは本当の息子ではありません。でも本当の息子のように愛しています。どう恩返しすればいいか分からないほどよくしてくれるあなたに心から感謝しています」
ワンさんは事あるごとに、こう語っていた
ワンさんは亡くなる2年前から認知症を患い、近所を徘徊するように
そのたびにシューさんは彼女を探し、家まで連れ戻した
ワンさんが亡くなった後、葬式を挙げた
シューさんの月収は3万円ほどだが、
葬式にかけた費用は40万円ほどだった
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