ありえへん∞世界で紹介された伝説の消防士
1982年2月8日 午前3時過ぎ
ホテルニュージャパンの9階から出火、
異常な速さで延焼し、9時間に渡って燃え続けた
出動した消防車などの緊急車両は128台、600人以上の消防士が出動
33人の尊い命が犠牲となった
防災管理がずさんだったため、
社長:横井氏に懲役3年の実刑が下った大惨事
そんな甚大な被害の裏側で逃げ遅れた66名を奇跡的に救出していた
人命救助を専門に行う特別救助隊 隊長:高野甲子雄
●ホテルニュージャパン火災で奇跡の救出劇を成し遂げた伝説の消防士
1948年、山梨県甲府市で13人兄弟の末っ子として生まれる
高校卒業後、働いていた町工場の近くで火事が発生
消防士の活躍を目の当たりにし憧れるように…
20歳で消防士になった高野は、東京の消防署で様々な現場を経験
特別救助隊への入隊が目標となった
しかし身長165㎝と体格に恵まれなかった高野は、
1年に1度の試験に3年連続で落ちる事に
それでも努力を続けた結果、4度目の試験で合格
29歳で入隊した高野は麹町消防署の永田町出張所に配備
すぐにチームの隊長を任され5人の部下を持つように
常に自ら先頭に立って行動し、部下を鼓舞し続けた
1982年2月8日、この日 高野たちは日中のトレーニングを終え、
有事に備え、宿直室で仮眠をとっていた
そして午前3時39分、火災発生の通報
場所は千代田区2丁目 ホテルニュージャパン
この2か月前、高野は日常的に行っている地域の定期点検で
ホテルニュージャパンを訪れていた
経費削減の為、加湿器が止められており、空気が異常に乾燥
さらに天井にはスプリンクラーが1つも設置されていなかった
廊下や客室、屋上に至るまで細部に渡り見て回った
その後、東京消防庁はホテルに警告を出す
しかし火災の後に発覚したのは、社長の横井が、
配管のない飾りのスプリンクラーを付け、誤魔化していたという事実
大変な事態を覚悟した高野たちはすぐに出動した
午前3時44分(通報から5分後)現場に到着
東京消防庁は空前の指令:第4出場に踏み切る
それは東京23区全域の消防車を動員する最大規模の指令
消防車を含め128台の緊急車両がホテルニュージャパンに集結
そんな中、高野たちは「俺達は一番危険な場所へ行くぞ」
火元に近く最も火の勢いが強い9階、10階を目指した
まず向かったのは警備室「非常階段の場所を教えてください!」
「今 社長と電話中なんです」
こんな状況にも関わらず、
その指示は「フロントの高級家具を非難させろ」だった
「人の命がかかっているんです!今すぐ非常階段の場所を教えてください!」
教えられた非常階段に駆けつけると、そこはすでに煙が充満
マスクを装着し、9階に駆け上がる
9階の非常階段のドアが熱で膨張し開かない
高野が下した決断は屋上に上がる事だった
午前3時49分、通報からわずか10分で屋上にやって来た
高野たちは窓から助けを求めている人たちにロープを渡し、引き上げ始めた
パニック状態になっている宿泊客に的確な指示を出し、ロープで引き上げる
こうして屋上から次々と逃げ遅れた人々を救出していった
落ち着きを取り戻した1人の客が、まだ部屋に取り残されていることを口にした
「あの部屋です。助けてください」
そこはまだ燃えてはいないものの隣まで火が迫っている部屋
高野は、フラッシュオーバーが脳裏によぎった
それは炎が1つの部屋から隣の部屋へ燃え移る時に突然起きる爆発的な火柱
一度起きれば部屋の温度は1000℃にも達し、防火服を着ていようが命を落としてしまう
フラッシュオーバーが起きるまで数分しか猶予はない
高野はチームで最も俊敏な浅見に突入命令を下した
浅見は、酸素ボンベを背負いマスクを付け、救出に向かった
祈るような気持ちで浅見を待つ隊員たち
その時、聞こえてきたベルの音は浅見の背負っていたボンベが切れる合図
慌てて命綱を引き上げる
何とか戻ってきた浅見「隊長!俺をもう一度行かせてください!」
高野は一瞬悩んだ
いつフラッシュオーバーが起きてもおかしくない
助けに行けば誰かが命を落とす可能性が高い
「俺が行く」隊長自ら突入するのはマニュアル違反
「行ってくる。援護を頼む」
部屋に到着すると、そこは異様な雰囲気だったという
逃げ遅れた宿泊客を探した
そして間もなくその男を発見、落ち着いて救助用のロープをかけていく
抱え上げようとしたその時、恐れていたフラッシュオーバーが起きてしまった
屋上の隊員たちは渾身の力を込め、命綱を引き上げる
すると炎の中から現れたのは、男を抱えて離さなかった高野だった
男は全身に大火傷を負い、高野も頭や顔などに大きな火傷を負った
熱で気管支をやられた高野は、救助を続けられる状態ではない
午前4時15分、通報から30分で高野は病院へ運ばれる事になった
残された隊員たいてゃ高野の姿に奮起、その後も必死に救助活動を続けた
600人以上の消防士が懸命に消火、救助を続け、7時間後…
午後0時36分にようやく鎮火した
その間、66人もの宿泊客の命を救った
午後1時、病室のベッドで消火の報せを受けた高野
そこへ活動を終えた隊員たちが駆け付けた
皆 真っ黒にススが付いた防火服のまま
高野の無事な姿を見て泣き出す隊員たち
「お前らこんな所いないで早く家族の元へ帰ってゆくり休め」
と高野は命令を下す
その後、高野は病室でフラッシュオーバーの最中、
助け出した客が亡くなった事を知る
高野はその後1000を超える現場で救助活動を行い多くの命を救い続けてきた
2007年、小金井消防署 所長に就任
どんな難しい状況であろうが、1人でも多くの命を救える消防士になりたい
純粋な想いをもった小柄な男は、いつしか伝説の消防士と言われるように
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